昭和22年に改正された教育基本法は、その前文に「日本国憲法の精神にのっとり、我が国の未来を切り拓く教育の基本を確立し、その振興を図る」という理念を掲げている。以来75年以上、日本国の教育の拠り所となっている。その教育基本法が謳う「第1条教育の目的」は、「人格の完成」「平和で民主的な国家及び社会の形成者の育成」「心身ともに健康な国民の育成」であり、それらを達成するために「第2条教育の目標」として養うべき態度や能力が設定されている。私自身、この「教育」を「生業」としてきた。様々な学校種、教育行政機関、在外教育施設などを経験し、そこにある「課題」の解決に向き合い続けてきた。「教育は国家百年の計」や「人作りは国づくり」の言葉のように、「国づくり」のお手伝いができたことは、私自身の誇りである。

 「教員養成に対する抱負」を思うに、「教育は人である」という言葉がキーワードである。私自身、先輩教職員、保護者、地域の皆様から学び、そして、児童生徒からも学び続けて自らの進む方向の軌道修正を図って階段を登り続けてきた。時に相手の心を傷つけたこともある。それでも、人に助けられ、人と感動を共有し、人に影響を与える存在になろうとしてきたのである。38年間の教員人生を振り返ると、学ぶ姿勢を持てたことで人として成長し、そのことが教師として影響を与える存在であり続けたことにつながっていると思う。

 私が思う「教育は人である」とは、次のような思いを含んでいる。

身近な人に優しくできる人が本当の優しさを教える人になる。

 人柄が謙虚であること、言行が一致していること、プラス思考で考えられることが大事である。どんな理論をもっていようが、行動が伴わなければ発言が軽くなり、人はついてこない。まず教師自身が自分の言葉に説得力を持たせてこそ「教育」が成り立つのである。

同じ目の高さでつながったときに、新しい出会いがはじまる。

 様々な立場からものごとを考えるには、自分自身が当事者意識を持てるかどうかが鍵となる。多面的な視点で物事をとらえるためには、特に、自分自身がマイノリティを体験・体感する機会をもつことやその心に触れることが大事である。

ひらき・つなぎ・つむぐ体験が個人や社会を作り上げる。

 自分自身が閉じている状態では、人と人はつながれない。勇気をもって開く(拓く)ことから全てが始まる。互いに開いたものを尊重し合い、つながり合うことで、新しい価値の創造(つむぐ)が成立していく。人の関わりが大事である。合言葉は、「ひらき・つなぎ・つむぐ」なのである。

 子どもたちの未来は、私たちの未来である。私は、公立学校の校長として5つの目標を掲げていた。その一つに「公教育の復権」を掲げた。公立の教職員としては定年退職を迎えて区切りとなるが、管理職という厳しい立場で奮闘した実績・経験をもとに、まだまだやるべき使命・為すべき仕事があると思う。その続きとして、「教育」の最も大切な要素である「教育は人」を牽引する教職員の資質を高めるお手伝いをしたい。実践で培った経験を伝え、「信頼される真のリーダーの育成」に取り組みたい。

千葉大学教育学部附属教員養成開発センター

教授 松井 聰

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